ケーススタディ ・ ベーカリー

高級食パンバブルの解剖

2013年、大阪の小さなパン屋が一種類の食パンだけを売り出しました。5年後には全国に数百店。そして閉店が始まります。

スライスされていない食パン一本。明るい台の上に、ナイフと厚切りの一枚が添えられている。

高級食パンは、私たちが知るかぎり最も完成された日本のケーススタディです。単一商品、行列、加盟店を募るフランチャイズ、そして相次ぐ倒産。何が押し上げ、何が壊し、海外から参入する事業者は契約前に何を読み取るべきかを整理します。

一種類のパンと、行列

2013年、大阪の小さなパン屋が食パンを売り出しました。商品はひとつだけ。ケースに並ぶ菓子パンも、サンドイッチも、クロワッサンもありません。一本まるごとの食パンだけ。しかも、日本人が普段パンに払う金額とはかけ離れた値段でした。店の名は乃が美です。

この商品には、テレビ番組を巡ることになる特徴がありました。耳が中身と同じくらい柔らかいのです。日本ではこれを生食パンと呼びます。焼かず、バターも塗らず、そのまま食べるパンという意味です。そして売れました。やがてこの店は、一日に5万本を売るパン屋として語られるようになります。

高級食パンはパンとして売られていません。贈り物として売られています。

レシピと同じくらい、置き方が効いていました。単一商品、一本まるごと、丁寧な包装、そして人に贈るために買う客層です。

ブームの仕組み

本格的な離陸は2018年です。乃が美は5年で47都道府県に出店し、売上高100億円を超えます。そして模倣が一気に増えました。銀座に志かわ、嵜本 SAKImoto、さらに数十のブランド。その多くは、メディアに頻繁に登場するパンのプロデューサーが立ち上げたもので、覚えられ、写真に撮られることを狙った奇抜な店名がつけられました。

加盟店にとって、この型は魅力的に見えます。飛び込んだ人を責める前に、なぜ魅力的だったのかを見ておく価値があります。

  • 作る品目が少ない:窯がひとつ、レシピがひとつ、少人数のチーム。研修は数日で終わります。
  • 持ち運べる商品:一本まるごとなら運べて、贈れて、日持ちもする。複雑な物流なしに持ち帰り需要が取れます。
  • 高い客単価:町のパン屋が一人の客から得る金額を大きく上回ります。

他業種の経営者はここに素早い転身を見て、フランチャイズ本部は幅広く加盟店を募りました。市場が埋まったのはこの時期です。需要が確かめられたことのない地方都市にまで、店が並びました。

潮目が変わる

最初の閉店は2021年にはもう現れています。2023年から2024年にかけて加速し、その原因を並べると教科書のようになります。

まず飽和です。高級食パンの店が数本の通りを隔てて並び、そもそも一店を支える人口密度もない地域にまで出ていました。次に商品そのもの。50メートル先で同じものが買えるなら、1,000円の食パンは贈り物ではなくなり、ただ高いパンに戻ります。口コミには同じ一行が並びます。値段に見合わない、と。

続いてコロナ禍が、機会に依存した型を直撃しました。訪問時の手土産、職場で分ける差し入れ。機会が消えれば、一本まるごとの食パンは棚に残ります。さらに2022年、ウクライナ侵攻後に小麦が高騰し、小麦粉を主原料とするレシピを圧迫しました。

最後にフランチャイズそのものの構造です。乃が美でも嵜本でも、苦しくなった加盟店が本部と対立し、訴訟と連鎖的な閉店に至りました。商品がひとりでに売れているあいだは型が保ちます。客を取りに行かなければならなくなった時点で、保たなくなります。

終わりの数字

最盛期、乃が美の店舗網は全国200店を超えていました。現在残るのは約70店で、オンライン販売に支えられています。同じ業態のある事業者は、2023年初めに約50億円の負債を残して事業を停止しました。

最も示唆的な例は、パン屋からすら出ていません。2018年、ある自動車販売会社が高級食パンに多角化し、複数の店を開きました。波が引き、子会社は重荷になり、2026年3月、同社は約4億7,000万円の負債を抱えて清算されます。健全な本業が、乗るべきでない時期に乗った流行に沈められました。

日本の企業倒産を追う帝国データバンクは、状況を一行でまとめています。ブームは落ち着いた、と。作家性のあるパンが消えたという意味ではありません。同社は、際立った商品に賭けるパン屋は今も客を見つけ続けていると指摘しています。

生き残ったもの

抜け出したのは三つの層で、規模とはほとんど関係がありません。

  • 商品の背後に本物の技術があった店。名前と窯だけではなかった店です。流行が過ぎても品質を保ち、地元の客を離さずに済みました。
  • 出店のための出店をやめた事業者:立地の良い一店、きちんと守られた商品、安定したチーム、そして資金を食う店舗網を持たないこと。
  • 制約を型に変えた人たち:店で客を待つのではなく、オンライン販売、配送、催事、他社との企画へ移った人たちです。

一方で消えたのは、流行の商品ひとつで会社が食べていけるという確信です。高級食パンは商品が悪くて失敗したのではありません。数百人が同じ時期に、同じレシピで、同じ店を開き、行列を事業モデルだと思い込んだから失敗したのです。

ブランドとして読み取ること

  • 行列は市場ではない:爆発した商品の初年度が測っているのは好奇心であって、確かな需要ではありません。大事なのは、メディアが書かなくなったあとに何が残るかです。
  • フランチャイズは誤りも含めてすべてを増幅する:良い着想を100店に変え、潮目の変化を100件の閉店に変えます。流行の市場では、その危険は本部ではなく加盟店に置かれます。
  • 単一商品は賭けであって、型ではない:希少性が支えているあいだは機能し、競合が当たり前にした瞬間に脆くなります。東京なら、それに二年ほどしかかかりません。
  • 高い価格は知覚価値で支払われる:1,000円の食パンを守るのは値段ではなく、ほかで手に入らないという事実です。50メートル先の模倣は、その両方を壊します。
  • 消費機会への依存は見えにくい危険:贈るために買われる商品は、社会的な暦に依存します。機会が細れば、別の用途には移りません。
  • 日本はひとつの市場ではなく、市場の集まり:高級食パンは限られた地域の限られた客層で機能していました。国全体が同じ一本を待っていると読み替えられる前までは。

国の平均ではなく、その街の実際の需要にコンセプトが耐えるかを確かめること。日本での開業をお考えの方と、私たちが最初に取り組むのがここです。

出典

よくあるご質問

高級食パンとは何ですか。

一本まるごと、スライスせずに売られる高価格帯の食パンで、耳が中身と同じくらい柔らかいのが特徴です。日本では生食パンと呼ばれ、焼かずバターも塗らずに食べます。2013年、大阪の乃が美から始まった業態です。

高級食パンのブームはなぜ終わったのですか。

四つの要因が重なりました。数本の通りを隔てて店が並ぶ飽和、1,000円前後の商品が競合によって当たり前になったこと、コロナ禍で手土産の機会が消えたこと、そして2022年以降の小麦高騰です。フランチャイズの構造がすべてを増幅しました。

乃が美の店舗数は現在いくつですか。

約70店です。最盛期には200店を超えていました。現在は店舗網の縮小を補うため、オンライン販売に軸足を移しています。

日本でベーカリーのフランチャイズに加盟するのは危険ですか。

流行の市場では危険です。フランチャイズは本部ではなく加盟店側に危険を置き、流行の変化を連鎖的な閉店に変えます。乃が美でも嵜本でも、加盟店が本部を提訴しました。

日本で作家性のあるパンは消えたのですか。

いいえ。帝国データバンクは、際立った商品に賭けるパン屋は今も客を見つけ続けていると指摘しています。消えたのは、流行の商品ひとつで会社が成り立つという考え方のほうです。

日本で開業する前に得られる教訓は何ですか。

行列が測っているのは好奇心であって需要ではないということ。そして日本はひとつの市場ではなく市場の集まりだということです。東京の三つの街で通用したコンセプトが、地方都市で通用するとはかぎりません。

ジェラールアレクサンドルのポートレート。

ジェラールアレクサンドル

戦略・ブランド・仕組み · 市場での立ち位置、ブランド構築、事業計画、顧客管理ツール、データ活用。

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